松原良香コラム“サッカー人”
第23回 ラモス瑠偉 さん
実はラモスさんとの付き合いはそう古いものではありません。もちろん、試合では何度も対戦していましたし、日本代表の中心人物として僕はリスペクトしていました。
実際に親しく話をさせてもらうようになったのは、ラモスさんがヴェルディの監督になってからのことです。
ヴェルディのコーチだった哲さん(柱谷哲二さん)から紹介してもらい、食事などに出かけるようになりました。
昨シーズンの開幕前、宮崎キャンプを取材した時のことです。ラモスさんは僕の顔を見ると手招きしました。
「こっちに座れよ」
僕は言われるままにラモスさんの横、ベンチに座って練習を見ていました。
後から哲さんから、こっぴどく叱られました。
ベンチに座っていたのは、ラモスさんと哲さんと僕だけ。コーチの菊地新吉さん、菊原志郎さん、臨時コーチの武さん(武田修宏さん)まで、ベンチの横で立っていたのです。
「なんで関係ない奴がベンチに座っているんだ。ああいう時は気を遣って断るんだよ」
僕は顔が真っ赤になる思いでした。
その後、シーズン中も、僕が解説の仕事でヴェルディの試合に行くと、ラモスさんは良く声を掛けてくれました。
昨年、ヴェルディがJ2で8連敗したことがありました。その試合の後、僕はラモスさんから呼ばれました。報道陣と離れるとこう聞かれました。
「お前、どう思う?」
ラモスさんは呆然としているように見えました。
僕は、試合を見ながら苛立っていました。それまでの連敗の試合は見ていませんでしたが、J1昇格を考えれば、もう一つも負けられない。この試合は絶対に勝たなければならない。
それなのに、選手たちからは切迫した雰囲気がありませんでした。局面、局面でしてはならないプレーをしているように見えました。
ヴェルディは個性的な選手が集まっているのが伝統と言われています。僕の目の前の選手たちは、個性的であることと自分勝手なプレーをはき違えていました。
実は、キャンプの時からこのままで大丈夫だろうかと僕は危惧していました。
練習試合から、ヴェルディはきちんとボールをつないで試合を組み立てていました。J1のクラブのように良質なサッカーを追求していたのです。
しかし−−。
J2は試合数も多く、勝つことよりも負けないことが大切です。しっかり守って、なるべく手数を掛けずに効率的に攻めること。これがJ2で生き残るサッカーだと思っています。
僕はラモスさんに思ったことを話しました。ラモスさんは頷いて聞いていたことを覚えています。
恐らく、僕の考えていたことは、ラモスさんの考えと同じだったと思います。
その後、ラモスさんは8連敗から、チームを立て直し、J1に昇格しました。フッキを中心とした効率的なサッカーは、まさにJ2で勝ち抜くためのものでした。
シーズンが終わった後、何度か会って話をしたのですが、ラモスさんはずいぶん雰囲気が変わったように思えました。あのプレッシャーの中、修羅場をくぐってきたので当然かもしれません。
ラモスさんは今シーズンからフロントに入り、監督を哲さんに譲りました。ヴェルディの監督は誰でもいいというものではありません。哲さんだからこそ、ラモスさんは敢えて監督を譲り、後方から支える道を選んだのでしょう。
ただ−−。
出来ることならば、もう一度、監督ラモス瑠偉として、理想のサッカーを見せてもらいたい。そう思うのは僕だけでないでしょう。
2008年6月